2003年11月4日、佐世保港。

目にしみるほどのお天気。いよいよ、日本を離れる日だ。
佐世保港を一望できるという、西海町の寄船鼻へ向かう。
道沿いには『南蛮船』『船番所』といった史跡名が目に付く。
平戸にオランダ商館があった昔から、ここは海上交通の要所だったのだ。

佐世保港には、プリンス・ウィレムの3倍ほどもある、驚くほど巨大な浮きドック式台船が出航を待っていた。
このタイプの台船は、船体に自在に海水を出し入れすることで浮力を変え、喫水を変える。自らの船体を半ば沈めてプリンス・ウィレムを導きいれ、その後排水することで通常の喫水に戻す。ドック内をまったくのドライの状態にすることすらでき、空いた部分にはコンテナなども積むことができるという。
プリンス・ウィレムの船体が、ほんとうに小さく見える。かなしいくらいに。
心地よい秋の風が、すすきの穂を揺らしていた。
打ち寄せる波の音だけが響いている。

2003年11月4日、14:00。
アンカー(錨)が引き上げられ、色鮮やかなオレンジ色の船体が、時計の長針ほどにも感じられるほどの繊細さで180度回頭を始めた。
台船は、小さな小さなパイロット(水先案内)船の先導で、ゆっくりと佐世保港を出航した。
目の前を過ぎていくそれを、我々は黙って見送った。
―――ほんとうの出航を見届けたハウステンボスのスタッフは、わずかに三人だった。

白く輝く水平線の方へ、巨大な船影は、消えていった。

インド洋を渡り、スエズ運河経由で、ヨーロッパへ。
航海期間は、45日―――。
クリスマスには、故郷に着ける。

昔見た名画の台詞が、胸に甦る。
今、万感の想いを込めて、別れを告げよう。

さらば友よ、さようならプリンス・ウィレム、God bless you(貴方に神の御恵みがあらんことを)―――

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