2003年10月23日、そのぎ港。天気晴朗。
オランダ村を離れたプリンス・ウィレムは、作業のためその日のうちに対岸のそのぎ港へと寄港していた。
主な内容は、ヤードと呼ばれるセイル(帆)を支える横木をすべて外す作業と、3本あるマストの頭頂部を、西海橋をくぐれるように縮める作業だ。
巨大なクレーンと高所作業車がプリンス・ウィレムへと腕を伸ばし、艤装を解く作業が始まった。
英語とオランダ語と長崎弁(笑)の飛び交うきびきびとした小気味良い作業を、我々は2時間ほど追い続けた。

いつの間にか、埠頭には多くの人が見物に集まっていた。
無理もない。いつもなら砂利採取船などが寄港するこの港に、17世紀の木造帆船が停泊しているのだから。
いつものように釣り糸を垂れていた太公望。お昼を食べようと空き地に車を止めた営業マン。それだけではない、高いマストを見て、自転車を飛ばして来たお母さん、子どもを車に乗せてわざわざ見せに来た若い女性など、何もない埠頭は突然、公園のような賑わいとなった。
「夫が外国航路に勤めてましたの。いつまでいるのかしら? うちの人にも教えてあげなくちゃ・・・」
初老の婦人はそう言って眩しそうに船体を見上げた。

作業は1週間ほどかかる予定だ。その間、プリンス・ウィレムの姿を町の多くの人が思いがけず見ることになるのだろう。

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